ハナミツ
「……大丈夫ですから」
ラジオから流れる声とは明らかに違う低くて通る声は、
しっかり聞こえた。
宣言するみたいに。
***
「わぁ、…………」
綾瀬さんがドライブがてら連れてきてくれたのは
公園だった。
「この時期満開になるんですよ。
事務所からの帰り道にたまに電車から見てたんです。」
桜が満開だ。
公園は広くて少し遠くに噴水も見えた。
夜桜を見に人が何人かいた。
「……凄い。」
桜の花びらが風に揺れて舞い落ちる。
夢の中にいるみたいだ。
石畳の桜の並木道は、どこか異国みたいで
帰り道がふと分からなくなってしまう。
「寒いですね。…」
「確かにちょっと寒いですね。綾瀬さん、大丈夫ですか?」
綾瀬さんは完全防備で、マスクにマフラー、コート、
誰がみても綾瀬さんだとはわからない格好だ。
「………平気ですよ。一応マフラーにマスクしてますし。」