ハナミツ
「癖みたいになってるんですよね。変装するのが、」
マスクを少し外し、桜を眺める。
「ま、こういう仕事してますから自業自得ってやつです。 」
はははとマスクに手をかけ、元の位置に戻した。
桜の花びらが綾瀬さんのコートを掠めて地面に落ちる。
綾瀬さんのコートは紺色で、夜に紛れている。
気がついたら居なくなってしまいそう。
何か、
言葉で引き留めないと
彼が見えなくなってしまう気がした。
「綾瀬さんは、声優さんになりたかったんですか?
ずっと。」
「…ずっと…なのかな。小さい頃アニメを見て
格好いいって思ったヒーローがいて、それから段々、声優っていう仕事に魅力を感じるようになった……って感じです。
高校の時に、声優の学校にいきたくて
毎日バイトして、ファミレスで時給が良かったから夜も働いて、そのお金で専門学校に行きました。
金は無かったけど、…友達はできて、楽しかったな。
まぁ20代のうちはちょい役しか貰えなかったけど、勉強になったことは沢山あったから。」
「…専門学校のお金自分で貯めていたんですか?」