ハナミツ
「あ、あぁ。いや、変じゃないですよ。
やっぱり声優の魔力ですかね?」
藤ノ宮さんは、そうかもしれませんねえ。と相づちをうってくれた。
マフラーはまた近いうちに返す約束をして、電話を切った。
スマホをテーブルに置いて掌を握る。
すこし長い指。
いつも通りの家の音。
いつも通りのテレビ番組。
ただ、俺の中にどす黒い何かが生まれた気がした。
優しくしたい、
優しくしたくない。
コントロール出来ない何か。……
藤ノ宮さんには、隠さなければいけない。
止められなくなるその前に。
牙を隠して、安心だと思わせて。
"怖くないよ、"
"さぁ"
"早く、
"こちらにおいで。"
鞄のなかにあった台本がめくれ蛍光マーカーが引いてある文字が目についた。
早く、俺の近くにおいで。