ハナミツ
リビングから扉を開け、玄関近くに行った。
「………」
少し開いている扉から声が聞こえた。
独特の低いけれど、艶のある声。
「『……俺を置いていくのか、あなたも。あの女の様に……』」
「『あなたに会いたかった、ずっと待っていた。
この場所でたったひとりきりで……。』」
「『…俺には君しかいない。………美しいひと。』」
コンッと足がドアに当たった。
「……すみません、綾瀬さん。」
綾瀬さんに声をかけたけど、1人台本とにらめっこさしていた。
完全に仕事モードな綾瀬さんだ。
「………。あ、あぁ藤ノ宮さん!すみません」
「いえ。お仕事邪魔してすみません、お風呂いただきました。お茶もごちそうさまです。おいしかったです。」
できるだけ用件を言って立ち去ろうとしたら、
綾瀬さんは椅子から腰を浮かした。
「良かった。顔色が大分良くなってますね、じゃ俺も風呂に入ってきます。タイミングよく声を掛けてくれてありがとうございます。」