ハナミツ
タクシーで帰ろうか。と七瀬さんから提案され
私は頷いた。
「驚いたでしょ、ごめんね。待ち伏せしてた訳じゃないんだ。ただ綾瀬が噂通りに来てたなら注意しようかと思って……えと、色々見せちゃって、…」
「……私の方こそすみません、綾瀬さんのこと、
知らなくて。声優さんだって……勉強不足で」
ー噂になってるよ?
駄目でしょ。一般人の子と関わったら。
さっきの七瀬さんの言葉が胸に刺さった。
噂になってることよりも、
その言葉が……棘みたいに。
夜の街をタクシーは駆け抜けていく。
街の明かりが流星みたいに、きらきら輝いては
通り過ぎていくのが切なく感じる。
「それは綾瀬が悪いよ。私利私欲で君に伝えようとしなかったんだ。」
「…いえ、」
「綾瀬は僕と同じ事務所で年的にも僕の後輩。
真面目ないい男だよ。
着々とキャリアを重ねてる。いま一番脂が乗ってる
時期なんだ、だから……なんていうかスキャンダルみたいな
そういうのがあってほしくなくって。
藤ノ宮さんにはキツイ言い方してしまったんだ。
それに君ももしかしたら危なかったかもしれない。
声優は一応、芸能人だからね。それなりにファンもいる。
逆恨みなんて事になったら、綾瀬より君が
狙われる危険性が高い 」