ハナミツ
スマホから着信音がした。
直昭さんのだ。
「俺のだ、姉ちゃんからだろうな。」
「うわさをしたら…ですね」
「こわいよ。ほんとあの人は今も昔も、」
直昭さんは、溜息をつきながらハンドルをきった。
「昔も?」
「色々あったから、あの人も俺も。」
姉弟なのに、まるで他人みたいにお姉さんの事を言う直昭さんに少し違和感をおぼえた。
「結希さんと?」
「…あの人も声優になりたかったんだよ。
でも、……叶わなかった。結果としておれだけが声優になって姉ちゃんはならなかった。」
「……」
結希さんが、声優さんに。
「…あの人の人生だから仕方ないけど、あの人から俺はこの仕事の楽しさを教えてもらえた。
一番最初の先輩だった。ーーだから……諦める決断をした時に俺はあの人を許せなかった…。俺の憧れていたさきを見ていた人だったから」