ハナミツ
どうしてだろう。
心のどこかで早く会いたかったと思ってしまった。
彼とは歩きながら話をしていた。
行く場所は決まっていた。
母が公演をしていた劇場。
観客数は2000人とそこまで多くはないが母はその劇場が好きだった。その劇場の舞台スタッフの照明の人も音響の人も優しくてその劇場の時は乗り込みの人数も減らして、なるべくその劇場の舞台の人と仕事をしていた。
ここの空気が好きなのと母がいうと笑われたらしい。
見学の予約をしていたから、すんなり劇場の中に行けた。中はほとんど変わっていない。
赤い座席。
二階席のバルコニー。舞台に関わるものしか上がれない階段。
音響室、調光室。
母はあそこで歌って笑って恋をしていた。
私はそんな母をみるのがすきだった。
そうだ。
どうして忘れていたんだろう。