後編 かすみ草の恋 ー大学生編ー
明夫君は来るなり、アイリちゃんの
お祖父さんと親しげに会話した後に


更衣室へ向かった。


俺は軽く身体を動かした後
素振りをはじめた。


ミカは小学生の時に俺の稽古に
ついて来て
1年間くらい剣道をしていた。


ピアノの発表会前に指を怪我して
先生にこっぴどく叱られたらしく
辞めてしまったんだけど。


元々運動神経も良く
筋も良く
経験者だから
一ヶ月たらずの練習で随分
上手くなってる。


素人の素振りでは無い。


それもアイリちゃんの指導の賜物だ。


たまに力む癖のあるミカに声をかけようとしたら
アイリちゃんがいつもとは全く違う
精悍な顔でミカに近付くと
アドバイスをしていて
見本を見せていた。


うん、アイリちゃんさすがだ…
速さ、正確さ、力加減
かなりの腕前なのが素振りだけで
わかる。


女であそこまで速く正確に振れる子を
俺は見たことない。


この道場の門下生達も決して
弱いわけじゃない。
平均してみんな強い方だと思う。


それでもアイリちゃんの
お祖父さんの言うとおり
アイリちゃんはこの道場で
一番強いという事がわかる。


剣道は力強さも大切かもしれないけど
それ以上に大切な事がたくさんある。


非力な人でも恐ろしく
強くなれる武道だ。


アイリちゃんは
しっかり剣道をしている。


2人を眺めていると
道場の門下生から乱取りをお願いされたので俺は2人を気にかけながらも
乱取りを始めた。


「面はいいんですか??」


「ああ、はい。大丈夫です。
遠慮無く俺の顔に当ててくれて
構いません」


俺の顔に傷をつけられればの話だけど。


「では、遠慮なく。
お願いします!!」


結果、準備運動にはなるけど
実力差がありすぎる。


俺は打ち合いがしたいのに
打ち合いにならない。


明夫君まだかな?と思って
明夫君に目を向けると


アイリちゃんの素振りを
射抜くように見ていた。


普段のアイリちゃんなら
あそこで明夫君のバケモンフェイス
に卒倒してぶっ倒れてる所だけど(笑)


道着を着てるアイリちゃんは
やっぱ違う。


真剣に耳を傾けていた。


そしてさっき
俺が少し気になったとこを
指摘されていて


3000本振ったら来いと
恐ろしく整った顔で穏やかな表情で
スパルタ鬼教官ばりの発言を
明夫君はサラッと言うと


アイリちゃんも真剣な顔で
返事をすると黙って始めた。


やっぱいつものアイリちゃんじゃない。


剣道に関しては一切ブレない
アイリちゃん。
カッコいいじゃん!!


さすが、ミカの友達!
見直した(笑)


アイリちゃんと明夫君の仲は
すっかりとスポコンの世界だ(笑)
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