この恋を叶えてはいけない
「あ、そー。
ならしゃーないわ」
戸村さんはそれ以上突っ込んでくることはなく、再び前を向いて歩き出した。
その顔はもう何事もなかったような顔をしていて……
「か、からかわないでくださいよ」
年上ならではの、からかいだと後から気づいた。
「べつにからかっとらんよ。
俺は素直な気持ちを言うただけや」
「……」
関西人の考えていることは、よくわかんない。
不完全燃焼のまま、ジト目で戸村さんを睨んだ。
「ほな。俺はこっちやから」
「あ、はい」
気が付けば、もう駅。
戸村さんはここから電車に乗って、5駅向こうへ。
あたしは駅の向こう側の自分の家へ。
「じゃあ、これからよろしくな。
唯ちゃん」
「ちょっ、勝手に名前で呼ばないでくださいっ!!」
あたしの反論に応えることなく、笑顔で手を振って駅へ消える戸村さん。
ああ、なんだろう。
これからバイトが少し憂欝に感じる……。
嵐はもう、すぐそこまで来ていた。