この恋を叶えてはいけない
お父さんといっても、あたしの記憶はほとんどない。
あたしが4歳の頃に、お父さんとお母さんは離婚した。
二人の気持ちのすれ違いだったらしい。
あたしはお母さんに引き取られ、母一人子一人という生活を15年間送ってきた。
高校卒業したらすぐに働く気でいたけど、我慢をしてほしくないという母の願いで、奨学金をつけつつも大学に入った。
病院で看護師をしているお母さんは、仕事で忙しくてあまりあたしにかまってくれなかったのは事実だったけど、それでもそれが嫌だとか不満だとか、そういうことはあまり思わなかった。
お母さんがあたしのために一生懸命働いてくれていること。
あたしを大好きでいてくれていること。
そんなのは、母の背中を見れば十分伝わっていたから。
気が付けば夏を迎え、19歳という年になる。
そんなある日の夜だった。
突然かかってきた電話。
それは「大沢 稔」という人が亡くなったという知らせ。
その人は……
あたしのお父さんだった。