この恋を叶えてはいけない
「……楽しかった、よ」
少し意味深な言葉で返すと、お母さんはそれ以上何も突っ込んでは来なかった。
そうこうしているうちに、目的の葬儀場に着いたらしい。
「大沢 稔 葬儀」と書かれた看板が立てかけられ、黒い服を身にまとった人たちが続々と中に入っていく。
あたしたちも帳簿に名前を書くと、同じように中へ入っていった。
少し仏頂面の、真正面を向いたお父さんの写真が真ん中に飾られている。
ああ…
確かに、こんな顔をしていたかも……。
第一に思ったのは、そんなことだった。
「唯香は身内になるから、もっと前に行けるのよ」
「……ううん。こっちでいい」
前のほうの席には、お父さんの身内らしい人が座っている。
あたしもお母さん方についたけど、実の娘だ。
きっと話をすれば、お父さんの近くに行けるかもしれない。
だけどそこまでの感情はわかなくて、あたしは一般者と同じように後ろの席へと着いた。