この恋を叶えてはいけない
 
「おにい…ちゃん……?」


信じたくない言葉を
自分を戒めるためにあえて口にした。

お兄ちゃんと紹介された駿は、あたしと同じように信じたくないといった瞳であたしを見つめている。


お母さんだけがその真意に気づかず、あたしたちに説明をし出した。



「唯香はまだ4歳だったから覚えてないわよね。

 お父さんという存在は、その時忘れられても、絶対に「お父さんは?」って聞く日が来るから隠さなかった。

 だけど……もう会えないお兄ちゃんのことを覚えさせているのは辛いと思ったの。
 お母さんと別れてから、お父さんは海外へ転勤。当然、それについていく駿。
 いつ帰ってくるかも分からないし、帰ってきたって、お母さんとお父さんが連絡を取り合うことはない。

 だから……

 唯香には兄の存在なんてないよう、一人っ子だって育ててきた……」


「……」



いっきに説明される言葉が、うまく頭に入ってこない。


お母さんの必死な言い訳。

腹立たしいものでもあるけど、分からなくもない言い分のような気もして言葉が出ない。
 
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