この恋を叶えてはいけない
5章 嵐の夜
「え、ヘルプですか?」
いつもどおり、バイトのお弁当屋さんへ行くと、店長からの思いがけない使命。
「そー。ちょっと欠勤で人出が足りない店舗があってさ、ちょっとそっちに顔出してくれない?」
「わかりました」
こういったヘルプに出ることは珍しくはない。
いくつかのチェーン店を構えるうちのお店は、人出が足りないところへ、お互いに行き来するのだ。
「それで、どこの店舗ですか?」
「今回、ちょっと遠いんだけど…S町店って分かる?」
「え……」
それを聞いて、思わず固まってしまった。
その町は、駿の住んでるところだ。
「行ったことはない?
分からなければ、乗り換えのところとか説明するけど」
「いえ。……行ったこと、あります」
お父さんのお葬式で、初めて降りた駅。
言われてみれば、あの駅前にうちの店舗があるなぁ、と思った気がする。
「じゃあ、よろしく頼むよ。
向こうの店長には、もう話がついてるから」
「はい」
出来れば、駿の関わるところに行きたくない。
だけどそんな私情なんか挟めることなく、あたしはしぶしぶその店舗へと向かうことにした。