この恋を叶えてはいけない
「あ、お母さん?」
《唯香、どうしたの?今から帰るの?》
「ごめんね。今日、バイトが違う店舗のヘルプだったんだけど、この嵐のせいで電車が停まっちゃって…」
《あら。大丈夫?》
「うん…。だけど復旧の目処がたってないみたいだから、今日は帰れそうにないや」
《そう……。一人なの?》
「あ……しゅ…友達の家の駅だったから。
その子んちに泊めてもらうことにしたから大丈夫だよ」
《それなら安心ね。
多分、明日唯香が帰ってくる頃には、お母さんも仕事に出ちゃってると思うから。
気をつけて帰ってきなさいよ」
「うん。ありがと。
それじゃあ、おやすみなさい」
《おやすみ》
電話を切ってから、罪悪感でいっぱいになった。
どうして、素直に「駿の家」って言えなかったんだろう。
駿と言ったって、きっとお母さんは何も心配になんかしなかった。
むしろ、名前も分からない「友達」よりも「兄」の家の方が安心したはずだ。
それでも……
「友達、ねぇ」
後ろから、複雑そうな声が聞こえた。