あやかし提灯
一:宵闇の街
菜月は見知らぬ街にいた。
よく言えば不思議、悪く言えば不気味。
テーマパークの一角を抜き取ったかのような街並みに、菜月は考えることさえも忘れた。
「迷い者がいる」
「迷い者、迷い者」
黒い面を着けた影のない二人組が菜月を指差し小声で話し始めた。
通り行く人々は共通して面を着けている。
菜月は無意識のうちに羽織っていたカーディガンで顔を隠した。
視界を遮って初めて、考えようとすることができた。
ここはどこだろう。
気がついたらここにいた。
部屋で寝た覚えはないため、夢ではないとわかった。
夢にしてはあまりに質感もありすぎる。
カーディガンの隙間から改めてあたりを見渡した。
空は紫と橙が混ざったような色をしていて、点々と灰の雲がある。
それぞれの古風な建物には提灯がつけられていて、赤や黄の光をぼんやり放っていた。
歩いている人々には影がなく、それぞれ個性的な面を着けている。
昔の風景、というと少し違っていて、街並みこそ古風なものの普段から見慣れた赤いポストがあったり、電気を使った看板もある。
服装も、和服を着ている人も洋服を着ている人もいる。
菜月の頭には一つしか浮かばなかった。
死者の世界。