*スケッチブック* ~初めて知った恋の色~
「好きやからに決まってるやろ! お前は頭良いのに、なんで女の子の気持ちがわからんねん!」



もう一度彼女の顔を思い出す。

泣き出しそうな顔をして目を逸らすかと思ったら、オレが笑いかけると子供みたいに安心した笑顔を見せてくれる。

ほんのちょっと苛めてからかったら、真っ青になったり、真っ赤になったり、オレの一言でクルクル表情が変わる。


さっきの彼女……。

消え入りそうな声で言ってた。

「ごめんなさい」って。


あの声は声が震えるのを懸命に我慢していたせいかな?

あの目は涙が落ちるのをこらえていたせいかな?

だとしたら、彼女がオレを見つめる眼差しの意味を一番わかってるのはオレだ。

だって、あれはオレがユウを見ている時と同じ……。




オレは顔を上げるとケンジに言った。


「ケンジぃ……。ちぃちゃんの携帯の番号わかる?」


ケンジはまだ少し怒っているような顔をしてジャージのポケットを探り、小さく折りたたまれた紙を差し出した。

オレはその紙を開いて中を確認すると急いで教室を出た。



廊下を走り出したところで背後からケンジの声がした。


「シィ! あの子、今日、誕生日やねん! だから……!」


ケンジはその先を言わなかったけど、なんとなく言いたいことはわかった。


『傷つけんといてあげて』


オレは彼女に会わなきゃ。

会ってちゃんと話さなきゃ……。

そう思って誰もいない廊下を走った。
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