*スケッチブック* ~初めて知った恋の色~

・ヒグラシの鳴く公園で

家に着くなり一目散に2階に駆け上がった。

途中キッチンからお母さんの声がしたような気がした。

甘い香りがしたから、多分わたしのためにバースデーケーキを焼いてくれたんだと思う。

でもそれどころじゃなかった。


自分の部屋に入って、ドアにもたれかかる。

はぁはぁ……。

学校から家まで走り続けたせいでまだ息が上がっている。

額から汗が一滴流れた。

だけどそんなことにも構ってられない。


制服のままベッドに倒れこみ、頭から布団をかぶった。

子供の頃からのクセ。

落ち込んだ時はいつも布団の中に潜り込む。

体を丸めて目を閉じる。

お母さんのお腹の中にいた頃の記憶が残ってるのかもしれない。

こうすると、守られている気がしてほんのちょっと落ち着く。


……はずだった。

でも今日はダメだ。

さっきの美術室での光景が甦ってきて、何度もグルグルと頭を巡る。


どうしよう。

どうしよう……。

明日から新学期なのに。

もしもシィ君に会ったら、どんな顔すればいい?

どんな風にしゃべればいい?

ううん。

それ以前に話しかけてもらえるのかな?

迷惑がってもう避けられるかもしれない。

ってゆか、わたし何やってたの?

何にも言わずに飛び出してきちゃって。

上手く誤魔化す方法はいくらでもあったんじゃないの?

せめて何か一言でも言えば良かった。

冗談だよって、笑い飛ばせるようなセリフ……。

どうして何も思い浮かばなかったんだろう。



うわーん。

もう、最悪……。


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