*スケッチブック* ~初めて知った恋の色~
「うん。公園で子供が怪我した時」


「ああ……あの時か」


シィ君が言ってるのは、わたし達が付き合うことになった、あの公園でのことだ。


「あの時、オレ、実はかなりうろたえとってん。子供、ビービー泣くし、どうしたらいいんかわからんかってん。男ってああいう場面で、ほんま役立たへんな……って思った」


クスッ……。

そうだったのか。

うろたえてたんだ。


「でもな、ちぃちゃんはめっちゃ落ち着いてたやろ? すげー優しい顔して。なんか、あの子のお母さんみたいやった」


「そうかな……? わたしもかなりビビってたよー」


「ううん。あれ見てオレ思ってん。女の子っていつか母親になるための素質……みたいなもんをちゃんと持ってるんやなって。ああいうのが母性って言うんかなって」


シィ君はわたしのお弁当をおいしそうに食べながら、ゆっくりとそんな話をしてくれた。


これって、褒めてくれてるんだよね。

なんだかちょっとくすぐったい。




食べ終わるとシィ君はゴロンて芝生の上に横になった。

頭の下で手を組んで仰向けになり空を眺めている。


わたしも同じようにやりたかったけど、シィ君の前でそんなポーズを取るのは気が引けたので、座ったまま顔を上に向けて空を眺めた。


9月の空。

まだ残暑と呼べるような暑い日が続いている。

だけど空の色は、夏のものとは明らかに違っていた。

薄く引き延ばした綿みたいな雲がフィルターのようにかかっていて、夏の青よりも淡い色になった空がその向こうにあった。


その時、風がそよいで、いつものシィ君の香りをわたしの鼻先に届けてくれた。

そうだ。

前からずっと気になっていたことがあったんだ。

思いきって聞いてみよっと。
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