*スケッチブック* ~初めて知った恋の色~
「わからんかなぁ……。レーズンは嫌いやけど、レーズンが包まれたあたりのパン生地がおいしいねん。ほんのり甘くて。この微妙な味わいは、ちぃちゃんにはわからんかもな。お子ちゃまやからな」


シィ君は、自分の意見にまったく同意してこないわたしに、呆れたような感じでそう言った。

あたかも自分の言ってることが正論だと主張するように。


ムキー!

“お子ちゃま”って……どっちが!!


「ぜっんぜん、わからへん。てゆか、シィ君て何気に好き嫌い多いよね」


「多くないよ。豆関係がアカンだけ」


「ブブー! レーズンは豆じゃありませーん。ブドウでーす。果物でーす」


ヤッタ!勝った!

わたしはフフンって鼻を鳴らして、勝ち誇った顔をした。

シィ君はというと……

レーズンを豆だと一瞬でも間違えてしまったことがよっぽど悔しかったのか

それとも、照れ隠しのつもりなのか、『イーダッ』って感じでヘンな顔を作ってわたしに見せた。


この人ってほんと子供だよね……。

そんなこと今更だけど……。




シィ君と別れてから3ヶ月がたった。

別れた当初はぎこちなかった関係も、最近では、こんな風に自然に話せるようになった。

もう誰もわたし達がつきあっていた事すら忘れてんじゃないかってぐらい“友達”として仲が良い関係。

なんだか、付き合ってた頃よりも居心地が良い気がしてる。

付き合っていた頃は、お互い余計な気を使いすぎていたような感じだった。

シィ君とはこんな風に友達でいるのが一番良いのかもしれない。

……そんな風に思い始めていた。



「シィくん!」


その時、突然頭上から響いたその声にみんなが注目する。
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