*スケッチブック* ~初めて知った恋の色~
ある程度の覚悟はしてきたものの、やはり想像以上の人ごみに、一瞬ひるみそうになる。

屋台が立ち並ぶメイン道路を歩いていると、あちこちから、食欲をそそるような匂いが漂ってきた。


「ナオ、あれ買っていい?」


ユウがそう言って指さした先にあったものはベビーカステラだった。


「ああ。いい……よ」


言いながら、視界に入ったある光景のせいで体が固まった。


「あれ? サトシ? 女の子連れてるし」


オレの視線の先を見て、サトシに気付いたユウがおどけたように言った。

ユウはまだ気付いていないようだが、オレにはわかっていた。

サトシが連れている浴衣姿の女の子が誰であるか。


やがてユウにもそれが理解できたようだ。


「ちぃちゃんっ!」


よっぽど驚いたのか、かなり大声でそう言うと、ふたりに駆け寄っていった。


ユウとちぃちゃんは偶然の出会いをキャーキャー言いながら飛び跳ねるように喜んでいる。


「よう」


サトシがオレに声をかけた。


「二人で来たん?」


オレは見ればわかるはずの質問をした。

あの日、ファーストフード店からの帰り道、サトシがちぃちゃんを誘っていたのは、聞こえていたけど……。

こうして目の当たりにすると、ほんとに二人で来たんだな……

なんて、そんなことを改めて実感していた。
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