*スケッチブック* ~初めて知った恋の色~
「あ。うん、今切ってきてん」


トレードマークの茶髪のサラサラロングはばっさりと切られていて、短くした髪をツンツンに散らして、まるで別人みたいだった。


そして、さっきから何よりも目立っているのは、サトシ君の背後にある大きなバイクだった。


「いいやろ? これ、オレの相棒」

わたしの視線に気付いたのか、サトシ君の方から説明してくれた。

これって、大型だよね……。

いつの間に?


「18になって、実はこっそり教習所通っててん。んで、やっと免許取れたから、どうせなら遠くまで行ってみよかなぁって思って」


「それで“自分探しの旅”……?」


ぶっ……。

吹き出して笑ってしまった。


もう、ほんとこの人って何しでかすか、てんでわかんない。


「笑うな」


サトシ君はそう言うと、手のひらに乗った小さな箱をわたしの目の前に差し出した。




「はい。これお土産」


「ええっ。わたしに……?」


「うん。たいしたもんちゃうねんけどな」


「開けていい?」


「いいよ」


ゆっくりと丁寧に包みを外して、箱を開けた。


「うわぁ。キレイ……」


箱の中に入っていたのは、グラスだった。

ぽってりと丸みを帯びた形。

底にからサイドにかけてオレンジの濃淡のグラデーション模様が入っていた。


「サトシ君、ありがとう。なんか、うれしい……。わたし実は今日、誕生日やねん」


「え? マジで?」


サトシ君は一瞬驚いたような顔をして、それから

「そっか……。おめでとうな」

はにかむように、そう小さく呟いていた。
< 329 / 417 >

この作品をシェア

pagetop