*スケッチブック* ~初めて知った恋の色~

・若気の至り

学祭も終わり、すっかり秋も深まった頃。

誰もがエンジン全開って感じで、受験に向けてスパートをかけ始めた。


……はずなんだけど。



「今日、帰り、どっか行かへん?」


この人は、なんでいつも一人だけこんなにマイペースなんだろう。

わたしは目の前でニコニコ笑っている彼に向かって小声で言った。


「サトシ君……授業は?」


「ええやん? だって自習中やもん」


そう。

今は自習時間。

呑気な2年生の頃と違い、さすがにこの時期になると、自習時間も貴重な勉強時間になる。

みんな静かに勉強に集中している。


……うん。

たしかに、自習時間なんだけど……。

それはうちのクラスの話なわけで……。


となりのクラスである、サトシ君は違うはず。

要するにサボってるんだ、この人は。

そして、さっきからわたしの前の席に、イスをわたしの方へ向けて座り、何かと話しかけてきている。



「オレ……邪魔?」


サトシ君は顔を傾けて、“キュン”……て、今にも鳴き出しそうな子犬みたいな目で訴えかけてくる。


ダメ……。

この目に弱いんだよね……わたし。

そんなことないよ……って否定しようとしたその時。


「思いっきり邪魔」


すぐそばで聞きなれた低い声が響いた。

< 336 / 417 >

この作品をシェア

pagetop