*スケッチブック* ~初めて知った恋の色~
「え……」


《オレ今、学校に来てんねん。教室で待ってるし》


「え? そうなん? あ……でも何時に終わるかわかんないし。遅くなるかも……」


《ええよ。ゆっくりでいい。急がんでいいから……。オレ……ずっと待ってるから》


「うん。わかった」


そう言って、電話を切った。


シィ君……どうしたんだろう。

なんで学校に?

先生に合格の報告をしに行ったのかなぁ……。




その後の買い物にはどうにも集中できずにいた。

結局いつまでたっても、スーツは見つからなかった。

わたし達は疲れた足を休めようと近くのカフェに入った。


お茶を飲んでいても、心はすぐに別のところに飛んでしまい、気もそぞろだった。


そんなわたしの様子にアカネちゃんが気付いた。


「ちぃちゃん……どうかしたん? さっきからぼんやりしてるけど……」


「え? うん……」


わたしはシィ君からの電話のことをアカネちゃんに話した。

それを聞いたアカネちゃんは、驚いて、それから早口でまくしたてた。


「ちぃちゃん! こんなとこでのんびりしてたらあかんやん! 早く行かな!」


「だって……買い物」


「そんなんいつでもできるやろ! ほらっ! 早く!」


そう言って、わたしの代わりに手荷物をまとめて、それをグイッと差し出す。

すぐにでも行けと言わんばかりに。


「アカネちゃん……ありがとう」


それを受け取り、店を出た。


雨はいつの間にか上がり、雲の間からオレンジ色の光が差し込んでいた。


手をかざし、夕暮れが近づいている空を見上げ、それから走りだした。



あの人の元へ。
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