*スケッチブック* ~初めて知った恋の色~
しばらくその光景をぼんやり眺めていた。
あの桜の木はまだ蕾すらつけていない。
薄赤茶の苔むしたレンガに縁取られた花壇には、色とりどりの花はまだ1つも咲いてなくて、ただグレーがかった茶色い土が寒そうに盛り上がっているだけ。
鮮やかな色を失ったこの世界の中で、彼のダッフルコートの紺色だけが、ひときわくっきりと浮かび上がって見える。
静かに降り続く粉雪は、彼のコートの肩に降りかかっては、儚く消える。
そこは、まるで音のない静かな……
――とても静かな世界。
頭の中に白いキャンバスを思い浮かべる……。
この景色の目に映る全てをそこに描いて焼き付けたい。
いつものように、スケッチブックを取り出す必要はなかった。
きっと一生、この光景を忘れることはない。
わたしは瞬きするのも忘れるぐらい、ずっとそこに立ちつくしていた。
あの桜の木はまだ蕾すらつけていない。
薄赤茶の苔むしたレンガに縁取られた花壇には、色とりどりの花はまだ1つも咲いてなくて、ただグレーがかった茶色い土が寒そうに盛り上がっているだけ。
鮮やかな色を失ったこの世界の中で、彼のダッフルコートの紺色だけが、ひときわくっきりと浮かび上がって見える。
静かに降り続く粉雪は、彼のコートの肩に降りかかっては、儚く消える。
そこは、まるで音のない静かな……
――とても静かな世界。
頭の中に白いキャンバスを思い浮かべる……。
この景色の目に映る全てをそこに描いて焼き付けたい。
いつものように、スケッチブックを取り出す必要はなかった。
きっと一生、この光景を忘れることはない。
わたしは瞬きするのも忘れるぐらい、ずっとそこに立ちつくしていた。