*スケッチブック* ~初めて知った恋の色~
誰もいない放課後の美術室。


制服のブレザーを脱いで、ブラウスの上からエプロンをつける。

髪を一つにまとめて後ろで結ぶ。

イスに腰掛けて、イーゼルに立てかけたキャンバスを眺める。

それから、ふぅ……って、小さな深呼吸を一つ。


美術部の活動は、月水金の週3日。

だけど最近のわたしは、部活の無い日も一人でここに来ることが多くなった。

その理由は……。


――コンコンッ。


静かな美術室に、外から窓を叩く音が響く。


ふふ。

そろそろ来る頃だろうと思ってたんだ。

机の上に置いてあったキャンディーボックスを手に音の鳴った方へ行き、窓を開けた。


「ヤッホー。ちぃちゃん、お菓子! お菓子!」


ケンジ君だ。

もしも、彼に尻尾があったら、きっとフリフリしてるんだろうな。

思わず緩みそうになる口元を引き締めると、お菓子を入れた缶の蓋をあけて、ケンジ君に差し出した。

とたんに、ケンジ君の表情がパァッてうれしそうになる。

白い八重歯がちょっと見えた。

ふふ……可愛いなぁ、ケンジ君は。


「お。チョコ発見! これ、いただきー!」


ケンジ君は透明のビニールに包まれた小さな四角いチョコを手に取った。

……と思ったら、横から手が伸びてきて、それはあっけなく奪われた。
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