*スケッチブック* ~初めて知った恋の色~
背の高いシィ君は少しかがんで、わたしの絵をじっと眺めていた。


「これって、安佐川やんなぁ?」


わたしが今描いているのは、町の北部にある山中を流れる安佐川とその周囲の風景だった。


「うん。まだ下書きやけど……」


言いながら、ドキドキしてきた。

しまった……。

思わず駆け寄ってしまったけど、近くに寄りすぎた。

少しかがんだ彼の顔が、わたしの顔のすぐ横にある。


――ダメだぁ……。

緊張しすぎて何を話せばいいのかわからない。

ケンジ君とだったらいくらでも会話が続くのに、シィ君とはどうも上手く話せない。



「知ってる? 安佐川って、蛍がおるねんで」


彼がしゃべって、ほんの少し体が揺れるたびに、フワッといい香りがしてくる。

初めて会った時から、わたしの記憶にしみついたシィ君の香り。


「知らない。夜、行ったことないから……」


そう答えるのが精一杯だった。

顔も体も微熱を帯びているのに、指先は緊張してどんどん冷たくなる。


「そうなん? じゃ、今度一緒に行かなあかんな」


シィ君はにっこり微笑んでそう言った。


なん……て?

一緒?

一緒に?

シィ君と?
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