*スケッチブック* ~初めて知った恋の色~

・夏雲と決意

開けっ放しの窓から、耳をつんざくような蝉の声が廊下に響く。

そんな季節がやってきていた。


「あ―――。暑ぅ……。こんな日に体力測定なんて、ありえへんよなぁ。もう、蝉煩い!」


手で顔をパタパタ仰ぎながらユカリちゃんは眉間に皺を寄せる。

たしかに。

虫の声って風情を感じることもあるけど、こんな日はその騒音のせいでさらに暑さが増す気がする。


お昼休み、わたし達は体操服姿で食堂へと向かっていた。

ユカリちゃんが言っているように、今日の体育は体力測定。

5時限目の授業に備え、わたし達はすでに着替えていた。

今からご飯を食べて、そのままグラウンドに出るつもりだったのだ。



「体操服、萌え~」


背後から聞き覚えのあるハイテンションな声がした。

ケンジ君だ。

軽くスキップしながら近づいてくる。

彼は最近、やけにテンションが高い。

彼女ができたんだって。

サトシ君の紹介で仲良くなったという、S女の女の子と付き合っている。

今も歩きながらニヤニヤ笑って、携帯を触っている。

相手はきっと彼女なんだろうな。


その時、隣を歩くユカリちゃんの携帯が音を響かせた。



< 87 / 417 >

この作品をシェア

pagetop