死にに行く。ナイフと馬人間と
終章

何度もうつらうつらしながら小屋に朝方までいた。


外が少し明るくなると僕は小屋を出てゆっくり海岸を歩いた。


流木の中に調度良い長さの棒きれを見つけて正眼に構えて心の中でメーンと叫びなから何度も振ったが、あの時のような緊張感や高揚感は得られなかった。


それは、仕方ない事だった。


あの時は、若いし怪我をするか悪くて死ぬかだった。


今は虚空に棒を振ってるだけなのだから。



あの頃とは確実に何かが変わったのだろうが、またああいう場面に遭遇したら僕は同じ行動をするだろうと思えた。


前のようには、思い切り打てないかも知れないし前のように早くは動けないだろうが。


ポケットの中を探ると小銭があった。


缶コーヒーを飲みたくなりバス停まで歩いた。


バス停の側に自販機があったはずだ。


自販機でコーヒーを買うと帰りのバス賃が、足らなかったが、途中で降りて歩けば良いかと思った。



缶コーヒーをなるべくゆっくり味わって飲んだ。


普段は甘過ぎる缶コーヒーは飲まないが今日は甘さが染みてきて美味しく感じた。


バス停のベンチに座り煙草を吸いながらゆっくりバスを待った。


まだ二時間近く待たないといけないが、苦にはならなかった。


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