最後の恋にしたいから
「課長……」

本当に、どこまでも優しい人なんだ。

みんなが憧れる理由が、心底納得できる。

「実は私、フラれちゃったんです」

「フラれた?」

笑顔を消した課長が、心配そうに私を見る。

そんな彼に、ファミレスでの出来事を話していた。

ほとんど、まともに話したこともない上司にこんな話をするなんて、他の人が聞いたら呆れるかもしれない。

それでも、課長の優しさに甘えてしまった。

「そうだったのか。それは辛かったよな」

黙って聞いていた課長は、話終えるとため息をついている。

その姿に我に返った。

「あの、すいません。こんな話されたって、迷惑ですよね。ペラペラと喋っちゃって……」

「なんで、そんな風に思うんだよ。あっ、今ため息ついたからか?それは、そういう意味じゃないって。彼氏、なんでそんなヒドイ言い方をしたのかなって、思ってたんだよ」

さすが、課長ともなると私の心を読むのがウマイ。

見透かされたようで、少し照れくさかった。

「やっぱり、課長ってみんなから人気があるのが分かります。本当に優しいですよね。全然絡みのない私の気持ちも、お見通しじゃないですか」

すると、今度は彼が恥ずかしそうに口をつむいで、目を泳がせている。

その姿が意外で、親近感が沸いてくる。

課長って、もっと自信家なのかと思っていた。

自分がモテることくらい、自覚しているだろうし。

なにせ、そのルックスなのだから。

「持ち上げられるの苦手なんだよ。今まで仕事でも、けっこう議論したりとかさ、どっちかっていうとキツイ言葉を浴びせられることが多かったから」
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