最後の恋にしたいから

「じゃあね、お疲れ様。奈々子、また明日」

「うん。またね」

20時になり、私たちの仕事は終わる。

だいたい、毎日このくらいの時間には退社出来ていて、オフィスに残っているのは、課長と営業社員が数名程度だ。

この本社ビルは50階建てのタワービルで、いろいろな企業の本社や支社が入っている。

私たちのオフィスは20階にあるのだけど、エレベーターは退社する人たちでいっぱいだった。

蒸し暑さを感じるエレベーターを降り、彩乃と別れたところで深呼吸をしてみる。

「外の空気が気持ちいいわ」

ビルは海に近いこともあり、風向き次第で潮の香りがする。

今夜は風が出ていて、海の匂いがよく感じられた。

オフィスビル街の一角なだけに、外に出ても人は多いけれど、室内の空気よりは清々しく感じられる。

この時間なら、寿人に余裕で会えるのにな……。

もうすぐ7月。

だいぶ、夜の空気も暖かくなってきた。

だけど、寿人に会えなければ、心までは暖かくならない。

ため息をつきながら、バッグからスマホを取り出し確認するも、今日もまったく連絡がない。

彼からかけてこないなら、私からかけようか。

メイン通りから一歩入った場所で立ち止まり、迷っているところへ、突然着信音が鳴り始めた。

それだけでもビックリなのに、なんとかけてきたのは寿人だったから、思わずスマホを落としそうになる。

だけど次の瞬間には、はやる気持ちを抑えきれずに電話に出ていた。

「もしもし！ 寿人？」