最後の恋にしたいから
連れて行ってもらった場所は、郊外の海岸線で、海水浴場として賑わう場所だ。

去年、寿人と行っていて、今年も行く約束をしていた。

それなのに……。

ジワリとこみ上げる涙を、そっと指で拭う。

実感がないとか平気な振りをしていたけど、やっぱり思い出してしまうし、そうなると切ない。

「思い出して当然だよな。むしろ、無理に忘れる必要はないと思うよ」

「ありがとうございます……」

涙は気付かれないようにしたつもりだったのに、課長には分かってしまったみたいだ。

不意の言葉に戸惑いつつも、分かってもらえたことが嬉しい。

「課長って、なんでも分かっちゃうんですね? なんでですか? 私たち、これまで全然接したこともなかったのに……」

疑問を投げかけると、課長は小さく笑った。

口角は上がっているけれど、目はどこか寂しそうだ。
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