最後の恋にしたいから
ニコリともしない彼女は、私の質問に伏し目がちに俯いた。

その態度に、嫌な予感がする。

「答えるからさ、とりあえず座れよ」

面倒臭そうに言う寿人は、あきらかにいつもと違う。

こんなに冷たい言い方をする人じゃなかったのに……。

動揺と戸惑いを隠しながら、言われるがまま彼の正面に座った。

目の前には、コーヒーカップが二つ。

ほとんど飲まれないまま置かれている。

一体なんの話なのだろう。

不安に思いながら寿人を見ると、彼も私を真っ直ぐに見た。

「単刀直入に言う。奈々子、オレと別れてくれね?」

「えっ⁉︎」

何を言われているのか、本気なのか冗談なのか。

まるで意味が分からない。

言葉を失う私に、さらに寿人は追い討ちをかけた。

「こいつ……、裕子と付き合いたいんだ」

横目で彼女を見ながら、寿人は続けた。

「会社の後輩なんだけど、気が合ってさ。悪いけど、オレたちエッチもしたんだ。だから、奈々子とは別れたいんだよ」

何悪びれもせずに言ってるの?

それに、この裕子さんて人、人の彼氏に手を出しておいて黙ってるだけ?

頭の中は混乱して、何をどう考えたらいいか分からない。

震える手を握りしめ、声を振り絞った。

「裕子さんて人は、何も言わないの? わざわざ一緒に来たんでしょ?」

チラッと彼女を見ても、俯いたままだ。

それが余計に、腹立たしく思える。

「こいつを責めないでやってくれないか? 最初に手を出したのはオレだから。奈々子といても、もう全然楽しくないんだよ。ごめんな」

「私の何がいけなかったの? ていうか、いつから彼女と?」

聞きたいことは山ほどあるのに、うまく口から出てこない。

最近疎遠だったのは、結局浮気をしていたからってこと?

泣きそうな気持ちをグッと押し込め、寿人を見据える。

すると、彼は深いため息をついた。

「だってさ、奈々子って何が言いたいか分かんないんだよ。いつもニコニコしてて、オレのご機嫌取りばっかで。本音が見えないっていうかさ。つまらないんだ」
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