最後の恋にしたいから
オフィスでは、相変わらず課長と接する機会は少ない。

だけど、時々感じる彼の優しい視線と、ほんの少しの微笑みが、確実に私の気持ちを動かしていた。

そして、今夜は夏祭りの日ーーー

「よし! バッチリだ!」

浴衣の着付けを前もって習っておいて良かった。

家でゆっくり支度が出来る。

薄いピンクの朝顔柄の浴衣に黄色い帯を締めて、姿見の前で最終チェック。

髪はオールアップで、色っぽくしたつもりだったんだけど……。

「やっぱ、後れ毛が残っちゃうなぁ。疲れた人みたいに、見えなければいいけど……」

髪型を変えようか迷っていると、ふと壁掛け時計が目に入って青ざめる。

「ヤバイ! 遅刻しちゃう」

今夜は課長も浴衣で来るから、電車で行こうと約束していたんだ。

仕方ない、髪型はこのままで行こう。

急いで巾着袋を手に取ると、待ち合わせの駅へ足早に向かったのだった。
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