ぺピン
恭汰が会議室を出て行ったことを確認すると、京香は近くにあった椅子を蹴った。

ガツンと、鈍い音がしたそれはテーブルにぶつかっただけだった。

「取引をしろだなんて、陰湿にも程があるわ」

毒づくように呟いた後、恭汰から渡された封筒を破ろうかと胸ポケットに手を伸ばしたが、手切れ金である1万円札が入っていたことを思い出してやめた。

代わりにスマートフォンを取り出すと、春馬の名前をタップした。

この時間ならば、春馬も昼休みに入ったことだろう。

「もしもし?」

春馬が電話に出たことを確認した後、京香はスマートフォンを耳に当てた。

「また今夜も都の面倒を見てくれるかしら?」

毒づくように言った京香に、
「残業でも押しつけられたか?」

春馬が笑いながら言った。
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