東京片恋専科。
▸3 僕の使命
ーー 想太's side
「あれ?小石川さん?」
空になったビールの缶を捨て、廊下にある冷蔵庫から2本目を手に取り部屋に戻る。
数十秒の間にさっきまで話をしていた相手が床でちいさく寝息を立てていた。
「こんなとこで!ベッド使っていいよ!」
小石川さん酒弱かったのか…
それにしてもスヤスヤと眠るその顔は、酒のせいか少しほっぺが赤くて、子供のようだ。
そもそも彼女はきれいというよりはかわいいタイプで、ちいさな子供のように表情をコロコロ変える子なんだけれど。
上から顔を覗き込んで言う。
「ていうかいまの1分足らずで寝たの?!」
言うやいなや、彼女はムニャムニャと言葉にならない声を出しながら、俺の首を両手でグッと掴んで自分の方へ引き寄せた。
突然のことにバランスを崩す。左手は床に肘をつき、ビールを持った右手は彼女の頭のすぐ脇だ。ビールをこぼさなくてよかったとほっとしたのも束の間。自分の状況に気付く。
ふたりの距離、もはや15センチ程度である。
その後、彼女が俺の顔を自分の方へと引き寄せたのは確かだ。しかし実際俺はその手の力に反抗することもなく、ほとんど自分から彼女の唇に自分の唇を重ねた。
寝ぼけている女の子の手の力などたかが知れている。ただ俺は目の前にあるそのかわいい唇の誘惑に負けてしまったのだ。