小宮の隣・俺のモラル

声を掛けられた時から、周りの客はヒソヒソと話し始めた。

「初めて見るね?今日は、1人なの?」

甘く優しい声で話し掛けてくる。

「初めて来たんです。1人で。」

「そっか。若そうだけど…大学生かな?」

「あ。はい。わかりますか?」

俺を品定めするようにジッと見つめてくる。

「わかるよ。ここへ来た理由当てていい?」

「はい…。」

「誰でもいいから、心の隙間を埋めて欲しい…違うかな?」

内心ギクリとした。この男…少し苦手だ。

「まぁ…間違ってないですかね…。」

「やっぱり!少し一緒に飲まないか?」

しかし、断る理由がなかった。

「えぇ。俺で良かったら。」

2時間くらい一緒に飲んだだろうか。
俺の悩みを相談したり…、相手のことを聞いたりしていると、時間は直ぐ経っていた。

「俺は、そろそろ帰るけど君はどうするの?」

「俺は、もう少し居ます。気を付けて帰って下さいね。」

「そうか…。それじゃまた。」

やっと…帰った…。あのまま一緒に帰っていたら、どうなってたんだ?

「ねー!君!なんで里見さんと帰らなかったの?!」

いきなり話し掛けられる。
あの人、里見って言うんだ。

「や…なんか、苦手なタイプで…。」

「めちゃくちゃもったいねー!里見さんになら抱かれたいって奴たくさんいるのにさー。」

「そうそう!ルックスだっていいし、あの余裕のある雰囲気と…甘い声…完璧でしょ!はぁ…。」

皆うっとりしちゃって…なんだよ。
けれど、興味はわかなかった。

俺は、やっぱり…濱村がいいんだな。

実感させられた。
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