小宮の隣・俺のモラル
小宮の部屋へ近づくにつれて、心臓がうるさくなる。
チャイムを押す指が震えた。
ーガチャ!ー
「小宮、来客中なんだろ…。」
俺の腕を引っ張ると、小宮は強く抱きしめた。
「由希…。俺のこと嫌いにならないで。」
なんでこんなこと言うんだ?
「なんでだよ。」
「今、家の中には俺の知り合いがいる。」
あぁ。やっぱりそういうことか。
「身体の関係をもったりしてない……今は。」
今は…?
んじゃあ、昔はあったんだな。
怒りを通り越して悲しみが込み上げる。
もう、小宮の腕の中には居れない。
「…小宮。離して。」
「嫌だ。」
「離せよっ!!!」
ードンっ!!ー
「っ…!!」
「お前は、俺の気持ちを無視して…あんなことして!小宮の存在が大きくなった時に突き落として……!俺だって、お前の都合のいいトモダチの1人なんだろ?!彼氏だか彼女だか知らねーけど…そういう奴は1人にしろよ!!俺を巻き込むなよ……!!」
大声をあげてしまった。
怒りと悲しみで涙が出そうになる。
「由希…。今の…。」
「あれ?悠くんのトモダチ?」
小宮の玄関から出てきた1人の男。
「里見さん!」
「出てきちゃマズい雰囲気だったよねー?ごめんね?」
悪びれた様子もなく話している。
「里見さん…最悪の状況です…早く帰って下さい。」
「あはは!ごめんごめん!そんな怖い顔しないでよー。綺麗な顔が台無しだよ。しっかし……へぇ。この人がねぇ。ふーん。」
俺をジーっと上から下まで見つめてくる。
品定めをされてるみたいで、感じ悪いな……。
「堅物な男って感じだけど…まぁ悪くないんじゃない?何年越しの愛だろうねー?悠くん♪…んじゃありがとう。お幸せに♪」
やわらかい物腰だけれど、初対面の人に失礼ではないか…??
去って行く男の後ろ姿をただ見つめるだけだった。