楓の樹の下で
あの写真を警察で青木に見せられてから二日経った。
仕事場に着くなり佐々木さんが呼んでるからと、伝言を受け朱里と一緒に佐々木さんの部屋へと出向く。
コンコンと扉をノックすると朝から元気な声で返事が帰ってきた。
ゆっくりと扉を開ける。
「おはようございます。」
「おぉおはよう。まぁちょっと座って。」
ソファに座るように促され朱里と一緒に不思議顔で席に着く。
「あのな、他のスタッフに言う前にお前らに聞いとかないと駄目かなって思ってな。」
「はぁ…なんですか」
「お前ら見つけた例のあの子だけどな、名前決まったらしい…」
「決まったってなんですか?」
朱里がすぐさま問いかける。
「少し記憶が出てきたらしく、ひなたと頭に出てきたんだと。それで日向ぼっこの日向と名前が決まった。」
「温かい優しさがある名前…よかったぁ」
朱里は嬉しそうに笑う。
まだ、佐々木さんが本題を言ってないのが気になり話を進める。
「で、本題は?俺たちに聞くことってなんですか?」
「うん、それがな、上と話して決めたんだが、日向くんをここに引き取ることになったんだ。」
「ここにですか??」
朱里と俺の声が重なる。
「おっ仲良しさんだなぁ」
ニヤッと佐々木は笑う。
「そんなことより、どうしてここなんですか?」
「区域外をという声も、もちろんあった。むしろそちらの方が多い意見だった。」
そりゃそうだよなと、思った。
「でも担当の先生が同じ区域の施設にって、懇願したんだ。あの子のために一日でも早く記憶が戻ったほうがいいと、そのためには暮らし育った街からあまり離れるべきではないって。」
「でも、だからって、俺たちがいるここじゃなくてもよかったんじゃないですか?他にもまだ…」
「うん、鏑木の言い分は最もだと思う。でも、じゃどこの施設にって決める会議で誰も引き取ると手を挙げないんだ。まぁ正直面倒くさい事例だよな、でもその光景みたら、俺手挙げてたんだわ。」
ははっと笑ってみせる。
「佐々木さんらしい。」
と、朱里も笑う。
「いや、二人とも笑ってる場合ですか…」
呆れて言葉に詰まる。
「そんなに呆れなくてもいいだろ!」
笑いながら言う佐々木が、少し声色を変え話を進める。
「だってそうだろう…母親に虐待を受け、しかもその母親に捨てられたかもしれないんだぞ。しかも、ここにいる子供たちみたいな捨てられ方じゃない。あの子を人としてではなく、ゴミそのものとしてだ。そんな、あの子を今度は守ってやらないといけない我々施設の人間がどうして拒絶しなきゃ駄目なんだよ!なんの為に俺たちみたいな人間がいると思ってる!あいつらは根本的職務より、厄介ごとだと心をあの子へと傾けるのを拒否したんだ。そう思ったらたまんないじゃないか…」
薄っすらと涙を浮かべる佐々木を見て、やっぱりこの人もそうゆう人だよな…と、思った。
袖口で無骨に目元を拭うと
「ごめん、熱くなってしまって…それでだ、俺はお前らならあの子に寄り添えるんじゃないかと思ったんだ。」
「俺らがですか?」
「そう、あの子の心にな。あの子には余計な感情もなく接してくれて、心からあの子を想う人間じゃないと駄目だと思うんだ。そう思ったとき、お前ら二人なら大丈夫だと、むしろお前ら二人がいいと思った。とくに朱里ちゃん、君は子供と同じ気持ちになれる素直さがある。それに鏑木、お前も子供と同じ目線に立ち答えを出す力がある。もちろん、お前ら二人だけに任せたりしない、俺を含めて他のスタッフが全力でサポートするから。」
俺は朱里を見た。朱里はすでに腹をくくってる顔で視線を返してきた。
「正親さん私あの子の幸せになる、お手伝いがしたい。」
その言葉はすごく強さがあり、俺の気持ちにも決断させてくれた。
俺は佐々木さんに向き直して
「わかりました。俺らなりに、全力で日向くんの支えになれるよう、勤めます。」
昼 小さい子たちが昼寝してる間にスタッフが集められ佐々木から皆に説明があった。
事件のあった子供なのに、誰も反対するスタッフはいなかった。
反対の者は遠慮なく言ってほしいという佐々木の言葉に皆鼻で笑って返事した。
「佐々木さんが決めたことに文句なんてない」と。
ここにいるスタッフは佐々木さんが好きな連中ばかりだからだ。
サポートでもなんでもすると、皆新しい家族が増えることが嬉しそうだった。
きっと反対しないのは あの子を、あの事件の被害者と思ってるスタッフはいないから。
ただの男の子、名前は山科日向。
ただそれだけだ。
スタッフの気持ちを確かめた後、佐々木は日向くんに会うため病院へと向かった。
明日あの子がここにくる。
あの日から一週間後の明日、再会する。
仕事場に着くなり佐々木さんが呼んでるからと、伝言を受け朱里と一緒に佐々木さんの部屋へと出向く。
コンコンと扉をノックすると朝から元気な声で返事が帰ってきた。
ゆっくりと扉を開ける。
「おはようございます。」
「おぉおはよう。まぁちょっと座って。」
ソファに座るように促され朱里と一緒に不思議顔で席に着く。
「あのな、他のスタッフに言う前にお前らに聞いとかないと駄目かなって思ってな。」
「はぁ…なんですか」
「お前ら見つけた例のあの子だけどな、名前決まったらしい…」
「決まったってなんですか?」
朱里がすぐさま問いかける。
「少し記憶が出てきたらしく、ひなたと頭に出てきたんだと。それで日向ぼっこの日向と名前が決まった。」
「温かい優しさがある名前…よかったぁ」
朱里は嬉しそうに笑う。
まだ、佐々木さんが本題を言ってないのが気になり話を進める。
「で、本題は?俺たちに聞くことってなんですか?」
「うん、それがな、上と話して決めたんだが、日向くんをここに引き取ることになったんだ。」
「ここにですか??」
朱里と俺の声が重なる。
「おっ仲良しさんだなぁ」
ニヤッと佐々木は笑う。
「そんなことより、どうしてここなんですか?」
「区域外をという声も、もちろんあった。むしろそちらの方が多い意見だった。」
そりゃそうだよなと、思った。
「でも担当の先生が同じ区域の施設にって、懇願したんだ。あの子のために一日でも早く記憶が戻ったほうがいいと、そのためには暮らし育った街からあまり離れるべきではないって。」
「でも、だからって、俺たちがいるここじゃなくてもよかったんじゃないですか?他にもまだ…」
「うん、鏑木の言い分は最もだと思う。でも、じゃどこの施設にって決める会議で誰も引き取ると手を挙げないんだ。まぁ正直面倒くさい事例だよな、でもその光景みたら、俺手挙げてたんだわ。」
ははっと笑ってみせる。
「佐々木さんらしい。」
と、朱里も笑う。
「いや、二人とも笑ってる場合ですか…」
呆れて言葉に詰まる。
「そんなに呆れなくてもいいだろ!」
笑いながら言う佐々木が、少し声色を変え話を進める。
「だってそうだろう…母親に虐待を受け、しかもその母親に捨てられたかもしれないんだぞ。しかも、ここにいる子供たちみたいな捨てられ方じゃない。あの子を人としてではなく、ゴミそのものとしてだ。そんな、あの子を今度は守ってやらないといけない我々施設の人間がどうして拒絶しなきゃ駄目なんだよ!なんの為に俺たちみたいな人間がいると思ってる!あいつらは根本的職務より、厄介ごとだと心をあの子へと傾けるのを拒否したんだ。そう思ったらたまんないじゃないか…」
薄っすらと涙を浮かべる佐々木を見て、やっぱりこの人もそうゆう人だよな…と、思った。
袖口で無骨に目元を拭うと
「ごめん、熱くなってしまって…それでだ、俺はお前らならあの子に寄り添えるんじゃないかと思ったんだ。」
「俺らがですか?」
「そう、あの子の心にな。あの子には余計な感情もなく接してくれて、心からあの子を想う人間じゃないと駄目だと思うんだ。そう思ったとき、お前ら二人なら大丈夫だと、むしろお前ら二人がいいと思った。とくに朱里ちゃん、君は子供と同じ気持ちになれる素直さがある。それに鏑木、お前も子供と同じ目線に立ち答えを出す力がある。もちろん、お前ら二人だけに任せたりしない、俺を含めて他のスタッフが全力でサポートするから。」
俺は朱里を見た。朱里はすでに腹をくくってる顔で視線を返してきた。
「正親さん私あの子の幸せになる、お手伝いがしたい。」
その言葉はすごく強さがあり、俺の気持ちにも決断させてくれた。
俺は佐々木さんに向き直して
「わかりました。俺らなりに、全力で日向くんの支えになれるよう、勤めます。」
昼 小さい子たちが昼寝してる間にスタッフが集められ佐々木から皆に説明があった。
事件のあった子供なのに、誰も反対するスタッフはいなかった。
反対の者は遠慮なく言ってほしいという佐々木の言葉に皆鼻で笑って返事した。
「佐々木さんが決めたことに文句なんてない」と。
ここにいるスタッフは佐々木さんが好きな連中ばかりだからだ。
サポートでもなんでもすると、皆新しい家族が増えることが嬉しそうだった。
きっと反対しないのは あの子を、あの事件の被害者と思ってるスタッフはいないから。
ただの男の子、名前は山科日向。
ただそれだけだ。
スタッフの気持ちを確かめた後、佐々木は日向くんに会うため病院へと向かった。
明日あの子がここにくる。
あの日から一週間後の明日、再会する。