楓の樹の下で
第六章 “本当のはじまり”
目が覚めた。
窓の外はうっすら明るくなってきている。
時計を見る。
もうすぐで7時になろうとしてる。
周りを見渡す。
二段ベッドの上にいていることがわかったので、ベッドから下りる。
「兄ちゃん…トイレ?」
ドキッとした。
下に寝ている男の子が聞いてきた。
「うん。」
と、答えるが反応がない。寝ぼけているのだと気づく。
ゆっくりとドアを開け廊下に出て向かい側の部屋に入る。
その部屋は広く、電気がついていた。
不意に誰かに見られてる気がして振り返る。
そこには誰もいなくて、壁にかけられてる写真があった。
その写真は向日葵と書かれた看板の前で七人の子供と、数人の大人が写っている。
真ん中にボクがいた。
不思議に思った。
あれはボク??

背後で音がして振り返る。
そこには若くて優しそうな女の人がいた。
ボクに気付いたお姉さんが、日向くん おはよう。と声をかけてきた。
どうしてこの人はボクのことを知ってるのかと、思った。

「あの…お母さんはどこですか?ここは何処ですか?」
「えっ日向くん…?」
さっきまで笑顔だった お姉さんの顔が変わる。
「どうしてボクはここにいるんですか?」
ちょっと待っててと言うとお姉さんは急いで奥へと走っていく。
慌てた大人が数人出てきた。
そこから急ぐように、鏑木というお兄さんと佐々木というおじさんに病院に連れてこられた。
来る途中、車の中で佐々木さんというおじさんに最近の出来事を聞いた。
どうしてだか、素直に受け止めることができた。

病院に着くといろんな先生たちが、いろんな質問をしてきた。
ボクの名前や、お母さんの名前。住んでる所や今わかってる現状のことなど聞いてきた。
先生は記憶が戻ったことによる一時的な混乱を起こしている。と、言った。
でも一時的なことと言っても、もしかしたら記憶をなくしていた出来事はこのまま戻らないか、どうかは先生もわからないと言った。
病院にいる間思い出したことがあって、そのことを佐々木さんのおじさんに伝えると、今度は警察に行くことになった。

部屋に通されて待っていると、大きな体のおじさんが入ってきた。
「あっ青木さん、お久しぶりです。」
そう言うと鏑木さんが挨拶をした。
「あぁ久しぶりですなぁ。なんか今日は思い出したことがあってきたとか…」
向かい側の席に座りボクを見た。
「あの…」
佐々木さんが何か言おうとした。
「大丈夫。ちゃんと聞いてますから。ほな、思いだしたこと話してくれるかな?」
「はい。でも思い出したことが本当のことなのか自信がないですがいいですか?」
「うん。ええよ。」
「えっと、お母さんは怒鳴りながら殴られてていつも泣いてました。」
うんうんと、青木と呼ばれたおじさんは頷く。
「ボクは毎日お母さんを守ろうしてたけど、無理で結局お母さんに守られてました。」
おじさんの隣で女の人がボクの言ったことをメモしている。
「その人はどんな人かな?」
「年はお母さんと同じぐらいの男の人で、肩にクモの絵があった。」
「クモって生き物の蜘蛛かな?」
「うん。クモの目が赤い絵だった。」
「わかった。その男の人が事件に関係してるかわからないけど、その人を見つけるから。思い出したのはそれだけかな?」
「お母さんがその人を一真って呼んでた。」
「そっか、わかった。今日は来てくれてありがとう。お二人もわざわざすんませんでしたな。」
いえ。と、二人は首を横に振る。
「ほな、我々は捜査に戻りますわ。気を付けてお帰りください。」
そう言っておじさんは隣のお姉さんと出て行った。
「じゃ帰ろうか」
佐々木さんが言った。

ボクはあの向日葵ってところに帰っていいのかなと思った。

向日葵に帰ってきたら、いい匂いがしていた。

台所からひょっこっとお玉を持ったお姉さんが顔だして、おかえりって言った。
「もうすぐ晩御飯だから、みんな手洗ってきてね〜!」
それを聞いた子供たちがバタバタと玄関へ来た。
一人の女の子が声をかけてくる。
「日向くん、おかえり。私わかる?」
「ううん。ごめん」
「大丈夫!だって、また初めましての自己紹介するだけだから。」
そう言って女の子はにっこり笑った。

御飯の間は自己紹介になった。
聞きながらそれぞれの顔を見て行くと微かに記憶があることに気づく。
例えば聞かされる前に茜ちゃんと瞬くんが姉弟だとわかったり、どっちが朝陽か夕陽かがわかったり。
大毅の痣が背中まであることだったり。

記憶をなくしてたボクは今のボクの頭の中にあるんだと、なんとなく思った。

さぁここからがボクの人生だと思った。
嫌なことはなくなったんだと。




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