楓の樹の下で
次の日 先生は学校に来なかった。
先生は見てたんだと、疑念から確信になる。
厄介なことになったなと思った。
昨日、先生と歩いてたあの時。
桜が満開な事を言われ本当に初めて気付いたんだ。
この咲き誇る小さな花たちが サクラ ということに。
だれもこの花が桜とは教えてくれてなかった。
桜と知って見るのは初めてだった。
でも、そう伝える事ができなくて、先生は明らかに動揺していた。
なにかボクに疑いを持つ目に変わっている。
先生を見て、咄嗟に嘘をついた。
ホッとした表情に変わる。
よかった。と思った、その時ボクは見つけた。
先生の背後の向こうの方で、アイツを見つけた。

聖 一真だ。

ズボンに手を突っ込んで軽快に歩いてる。
アイツがボクの近くにいる。
怒りが頭も心も支配していく。
先生がボクの視線に気付き、視線の先を見ようと振り返えろうとする。
見られたくない。
嘘を付いて止めると、先生が振り返るのを止めた。
どうして聖 一真がここにいる?
アイツがお母さんを…。
考えてる暇はない、アイツを見失ってしまう。
忘れ物したと言って先生と別れアイツを追った。
大人の男の人の足は早く、ボクは小走りになった。
見失わないように必死に追いかける
駅に近づいてきたのがわかる。
どんどん人が増えてきた。
アイツは歩道橋を上がっていく。
ここだ!ここしかない!
ボクは小走りを止め、走り出した。
一気にアイツとの距離を縮めた。
アイツは渡り終え下りの階段に足をかけた。
今だ!!!!
渾身の力を両手に込めて、思いっ切りアイツの腰を押した。
聖 一真は人形のように階段を転がり落ちて行く。
一回転した聖 一真はボクを見た。
目が合った。
落ちて行くのは痛いのだろう。
痛みで歪む顔がボクを見つけた。
途端に、一層顔を歪ませた。
その顔を見てボクは愉快さで満たされる。
堪え切れず笑みがこぼれる。
周りにいた大人たちは巻き込まれないように階段の端へと避ける。
聖 一真は何かに掴もうと手が空を切る。
何事かと理解し始めた大人たちが騒ぎ立てる。
下まで落ちた聖 一真は目を見開き、鯉のように口をパクパクさせて何かを伝えようとしている。
聖 一真の体の下を真っ赤な血が滲んでいく。

ボクは来た道を走り出す。
来た階段に差し掛かろうとした時、急になにかとぶつかり尻餅をつく。
起き上がるとそこに先生がいた。
先生は何もない所に謝ると少しキョロキョロした後、ゆっくりと下に視線を向けボクを見つけた。
明らかに恐怖で表情が固まる。

見た?見られた?

先生にどうしてここにいるのかを聞くといつもと変わらない様子で駅前の本屋に行くところだと言った。
先にある騒ぎはなんだと、聞いてきた。
聞かれてボクの頭の中に痛みと恐怖で顔を歪ませた聖 一真の顔が浮かぶ。
嬉しさが湧き上がってくる。
わからないと答えて、先生をその場に残し帰った。

そして、今日。ここに先生はいない。
さて、見られてたとわかったのなら、どうするかを考えなくては…。
もの凄い速さで頭が回転する。



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