楓の樹の下で
歩道橋での事件は翌日の朝刊の隅に掲載されていた。
被害者は聖 一真。
一真と書かれてあるのを見てゾッとした。
日向が警察で証言した名前と一緒だったからだ。
紙面では足を踏み外して転落したとされていた。
本当にそうなのだろうかと考えた。
けれど、答えがでない。
明日にでも青木さんに連絡しようと決めた。
あれから日向はなんの変化も見せない。
いたって普段通りだ。
それが返って今では不気味で仕方がなかった。
翌日 青木さんに連絡して、次の日、日向が学校へ行ってる間に会うことになった。
当日、約束は10時だ。
日向が学校を出ると俺も行く準備を始めた。
駅近くの喫茶店で落ち合った。
「お久しぶりです。」
喫茶店に着くと、すでに青木さんは店にいてコーヒーをすすっていた。
「久しぶりですなぁ。まぁ座って座って!」
席に着き青木さんと同じ物を頼んだ。
「今日はわざわざ、お呼び立てしてすみません。」
「いや、私の方も聞きたいことあって、連絡しなあかんなって思ってたとこやったんですわ。」
久しぶりの関西弁は心地よかった。
「で、話ってなんやろ?」
「三日前の、そこの歩道橋での事件なんですが…」
明らかに青木さんの顔色が変わった。
「被害者の聖 一真って人は日向が証言して、重要参考で捕まえた人じゃないかと思いまして…。」
少しの沈黙後、青木さんは口を開いた。
「鏑木さんの言う通り聖は日向くんが証言した奴ですわ。」
やっぱりそうだったんだと思った。
「そこでお聞きしたいんやけど、なんでそう思ったんです?なんか心当たりでもあったんですか?」
ゴクリと唾が喉を通る。
「いやぁ言いにくいことなんやけど、その事件日向くんによう似た男の子を事故現場で見たって声があるんですわ。」
やっぱり警察もバカじゃない。
「しかも、多数。今言ったことと、鏑木さんが抱えてること一緒ちゃいますか?」
言えない。まだ言えない。
「青木さんが何を仰りたいのかわかりませんが、日向が記憶をもどしてから違和感に感じてるのは確かです。でもそれは、記憶をなくす前に戻ったからによるもので、違和感に感じるの当たり前の事なんです。」
一気に間髪いれずに話した。
「日向くんはあなた方に守られて幸せ者ですなぁ。」
嫌味だと、すぐにわかった。
「でもそれが、本当の幸せとはかぎりませんのやで!」
語尾を強めて言う。
「ですから日向は…」
日向はなんだと言いたいのか自分でもわからず言葉に詰まる。
青木さんが言ってる事は正しい。そんなことは言われなくてもわかってる。
あの寒い日、冷たくなった日向を見つけた日から、日向が幸せになることを一番に望んできたのは、俺と朱里だ。
できることなら、自分たちの手で幸せにしてやりたい。そう思ったきたんだ。
なのに……あんな事…。
思わず涙が溢れる。
「男が泣くってのは、よっぽどの事やと、思います。どうか話してみてくれへんやろか?」
その言葉に心がぐらつく。
いっそうこの悩みを手放してしまえば、どんなに楽か頭によぎる。
【あの子の心に寄り添う】
そうだ、そう決めたんだ。
「いえ、今はまだ言えないです。言える確信がないんです。」
俺はまだ日向を信じたい。
「もう少し待ってもらえませんか?今はまだ言えないけど、必ずお話しますから。」
青木さんは深い溜息をついて、頭を掻いた。
困った時の青木さんの癖だ。
「ここは喫茶店です。取調室でもないし、深く検索しようとはしません。でも必ずなんかあったら、我々を頼ってください。その為に警察ってもんはあるんですから。」
「ありがとうございます。」
俺は深く頭を下げた。
二人で喫茶店を出た。13時をまわろうとしている。
向日葵に帰ったら、今度は逃げず日向と向き合おうと決めた。
青木さんと別れ歩き出す。
電話が鳴った。
ディスプレイに森山 月子と出ている。
嫌な予感がした。
深呼吸して電話に出た。
被害者は聖 一真。
一真と書かれてあるのを見てゾッとした。
日向が警察で証言した名前と一緒だったからだ。
紙面では足を踏み外して転落したとされていた。
本当にそうなのだろうかと考えた。
けれど、答えがでない。
明日にでも青木さんに連絡しようと決めた。
あれから日向はなんの変化も見せない。
いたって普段通りだ。
それが返って今では不気味で仕方がなかった。
翌日 青木さんに連絡して、次の日、日向が学校へ行ってる間に会うことになった。
当日、約束は10時だ。
日向が学校を出ると俺も行く準備を始めた。
駅近くの喫茶店で落ち合った。
「お久しぶりです。」
喫茶店に着くと、すでに青木さんは店にいてコーヒーをすすっていた。
「久しぶりですなぁ。まぁ座って座って!」
席に着き青木さんと同じ物を頼んだ。
「今日はわざわざ、お呼び立てしてすみません。」
「いや、私の方も聞きたいことあって、連絡しなあかんなって思ってたとこやったんですわ。」
久しぶりの関西弁は心地よかった。
「で、話ってなんやろ?」
「三日前の、そこの歩道橋での事件なんですが…」
明らかに青木さんの顔色が変わった。
「被害者の聖 一真って人は日向が証言して、重要参考で捕まえた人じゃないかと思いまして…。」
少しの沈黙後、青木さんは口を開いた。
「鏑木さんの言う通り聖は日向くんが証言した奴ですわ。」
やっぱりそうだったんだと思った。
「そこでお聞きしたいんやけど、なんでそう思ったんです?なんか心当たりでもあったんですか?」
ゴクリと唾が喉を通る。
「いやぁ言いにくいことなんやけど、その事件日向くんによう似た男の子を事故現場で見たって声があるんですわ。」
やっぱり警察もバカじゃない。
「しかも、多数。今言ったことと、鏑木さんが抱えてること一緒ちゃいますか?」
言えない。まだ言えない。
「青木さんが何を仰りたいのかわかりませんが、日向が記憶をもどしてから違和感に感じてるのは確かです。でもそれは、記憶をなくす前に戻ったからによるもので、違和感に感じるの当たり前の事なんです。」
一気に間髪いれずに話した。
「日向くんはあなた方に守られて幸せ者ですなぁ。」
嫌味だと、すぐにわかった。
「でもそれが、本当の幸せとはかぎりませんのやで!」
語尾を強めて言う。
「ですから日向は…」
日向はなんだと言いたいのか自分でもわからず言葉に詰まる。
青木さんが言ってる事は正しい。そんなことは言われなくてもわかってる。
あの寒い日、冷たくなった日向を見つけた日から、日向が幸せになることを一番に望んできたのは、俺と朱里だ。
できることなら、自分たちの手で幸せにしてやりたい。そう思ったきたんだ。
なのに……あんな事…。
思わず涙が溢れる。
「男が泣くってのは、よっぽどの事やと、思います。どうか話してみてくれへんやろか?」
その言葉に心がぐらつく。
いっそうこの悩みを手放してしまえば、どんなに楽か頭によぎる。
【あの子の心に寄り添う】
そうだ、そう決めたんだ。
「いえ、今はまだ言えないです。言える確信がないんです。」
俺はまだ日向を信じたい。
「もう少し待ってもらえませんか?今はまだ言えないけど、必ずお話しますから。」
青木さんは深い溜息をついて、頭を掻いた。
困った時の青木さんの癖だ。
「ここは喫茶店です。取調室でもないし、深く検索しようとはしません。でも必ずなんかあったら、我々を頼ってください。その為に警察ってもんはあるんですから。」
「ありがとうございます。」
俺は深く頭を下げた。
二人で喫茶店を出た。13時をまわろうとしている。
向日葵に帰ったら、今度は逃げず日向と向き合おうと決めた。
青木さんと別れ歩き出す。
電話が鳴った。
ディスプレイに森山 月子と出ている。
嫌な予感がした。
深呼吸して電話に出た。