楓の樹の下で
第四章 “愛情”
あの二人が帰ってから三日が経った。
あれから、何も思い出してはいない。ただオレは9歳の小学三年生ってことはわかったらしく、先生が昨日教えてくれた。歳がわかったのに、なんでオレの名前はわからないんだろうと、思ったけど先生に聞くことができなかった。
あの二人はいつくるのかと、待ちわびる。
けど、来たのは警察の二人と先生と看護師。

「こんにちわ。」
女の刑事が声をかけてきた。
オレがあっち側のおっさんが嫌だとわかってるみたいだった。
こんにちわと、返事する。
「そんな声してたんだ。声聞けて嬉しいな。」
そう言われて少し戸惑う。
「今日はね、君に報告があって私たちきたの。」
「お母さんのこと?」
周りの大人たちが一斉に目を見開いた。
「お母さんのこと思い出したのかい?」
先生が聞いてくる。
廊下の方を指差しながら、
「ううん。そこで、おばちゃん達が話してたから…ほら、あの子の母親殺されて見つかったらしいよって言ってた。」
そう言って下を向いた。
オレの言葉を聞いた先生が怒って看護師に何か言っている。
「そっかぁ。じゃ辛かったね。」
女の刑事がオレを抱きしめた。
まただ。この優しく柔らかい感じをオレは知ってる。
少し抱きしめた後刑事は話しを再開した。
「それでね。今日来たのは見て欲しい物もあって…。」
鞄の探る木田。
「お母さんってどんな人?殺されたってなんで?」
不意の問い掛けに戸惑い黙る木田。
後ろで腕組みしながら見ていた青木が話し出す。
「木田、変わって。」
はい。と木田は短い返事をして青木と交代した。
「おっちゃんはな、ボクの事強くて賢い子やと思ってるんや。今から話す事はちょっとボクには辛いことやと思うんや。けどな、隠しててもいつか わかることやし、今のままではアカンとおっちゃんは思っとる。どや、今言ったことわかるか?」
なんとなく言いたいことみたいなのは、伝わってきたので首を縦に振る。
「そっか、ほな話続けるぞ。ボクの名前はまだわかっとらんのや。これはおっちゃんらの、頑張りがまだまだってことやねん。すまんな。名前見つけてやれんで。」
今度は首を横に振った。
「でもな、ボクのお母ちゃんが見つかった場所やけどな、ボクのお家やったんよ。仕事にこないのを心配したお母ちゃんの友達が見つけてくれたんや。」
オレの様子を伺いながら、おっさんは話を続ける。
「玄関入ったら二つ部屋があった。玄関すぐに台所とメシ食う場所があってな、その奥の部屋にお母ちゃんが倒れてたんや。」
オレはおっさんの言う言葉を頭の中で想像しながら聞いていた。
「布団があってな、そこに隠すようにお母ちゃん死んどった。お母ちゃんの近くには、金属のバットが転がってて、これで殴られて殺されたと、おっちゃんら警察は思ってる。」
少しズキンとあの音がした。
すぐさま先生が青木を止めた。
「刑事さん、これ以上は…。」
青木は溜息をついた。
話をやめようと、おっさんが立とうとした。
思わず腕を掴む。
「待って!ボク聞きたい。おっちゃん…お願い話して。ボク大丈夫だから。」
「…わかった。話したる。でも、辛くなったら我慢せんとちゃんと言うんやで!」
「うん、わかった。」
さっきより大きな溜息をつく。オレも少し構える。
「でや、お母ちゃんやけど顔がわからんのや。」
「どうして?」
「顔殴られててな、ちょっとわからんのや。」
わからないってどうゆうことかが、わからない。
「会えるの?」
「いや会わんほうがええ。なんぼボクが強くも、それはアカン。無理なんよ。」
そのおっさんの言い方が強くて、ダメなんだと、思った。
「会えんけど写真持って来たから。見るか?」
さっき見てほしいのってこのことかと、思った。
木田が青木に写真を渡す。
その中の一枚に心臓がドクンッと反応した。
他の写真はどれもつまんなそうな顔をしている、オレがいる。自分というより、似ている他人の感じがする。
けれど、オレの体が反応した その一枚は母親らしき人とくっついて笑っているオレがいてた。
おっきな木の下で、オレは笑っている。
写真の中の母親と目が合う。
途端に頭が激しい音と共に強烈に痛み出した。
この前のよりはるかに苦しい。
今度は心臓も痛くてたまらない。
息がうまく吸えない。
助けて、助けて、助けて。
誰でもいいから、助けて!!

先生が看護師に指示をする。
隣にいた、おっさんがオレにすまんと叫ぶ。
おっさんの顔が泣きそうな顔に見えた。
心配してほしくなくて、少し笑ってみせる。
看護師に押されて刑事二人が部屋の外へと出される。
頑張るんやで。負けるんやないで。と声がする。

《ひなた》女の声で誰かを呼んでる。

それを最後にそのまま、オレは意識を失った。
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