嘘でも良い
送らなくなった手紙 彷徨side
家に帰ると、兄貴がいた。
僕より先に帰るなんて、珍しい。
きっとまた、学校をサボったんだろう。
兄貴は頭良いから、サボっても誰も何も言わない。
本当、兄貴って良いことばかり持っているよな。
「おぅ!
お帰り、彷徨!」
僕はそのテンションの高さに、少し引いた。
「どうしたんだよー彷徨!
俺がいなくて寂しかったかー?」
<そんなこと思わないし。
テンション悪くて、気味悪い>
急いでケイタイを取り出し、メモ欄にうっていく。
兄貴はそれを見ても、アハハと笑った。
「そうだ彷徨。
今までムーンとして生きてくれて、ありがとうな!」
<どういう意味?>
「じつはだな!
俺、越田夏美さんと付き合うことになったんだ!」
僕は驚いて、ケイタイを落とした。
「今までずっと、夏美さんの所に行って、付き合ってくださいって言い続けたんだ。
そうしたら今日、良いわよってオッケーもらえたんだ!
だから、彷徨がムーンとして夏美さんに手紙を送ることもなくなったんだ!」
送らなくて良い?
普段の僕なら、喜んでいたと思う。
だけど今の僕が感じるのは、何とも言えない気持ちだった。
寂しさや空虚感に、近いと思う。