嘘でも良い
さらってほしいなどと奇特なことは思わないけど。
誘拐未遂事件があってから、両親のあたしたち双子に対しての対応は変わった。
お姉ちゃんに対して“のみ”過保護になったんだ。
あたしは放任されている。
別に干渉されるのはそこまで好きじゃないから良いんだけど。
何事もお姉ちゃんが優先されるのには、ムカついてきた。
家でも学校でも―――いや、世間では、あたしよりお姉ちゃんを中心に回っているんだ。
同じ親から生まれたあたしとは、天と地ほどの差があるほどの扱いをこれからも受けて行くんだ。
学校に着いたあたしは、下駄箱から靴を取り出そうとパカッと開けた。
すると上履きの上に、手紙が置かれていた。
こんな朝早くから置かれているのなんて、初めてだ。
あたしは手紙を取り、表にした。
【越田夏美様】
別にわかっていたことなので、いつも通り鞄に仕舞おうとして、やめた。
便箋が、とても可愛かったからだ。
いつもお姉ちゃん宛ての封筒は、ピンク色を基調にした、いかにも女の子や姫らしい模様のモノばかり。
よく言えば、ファンタジーちっく。
悪く言えば、小学生。
そんな柄物が多かった。
だけど、今回は違う。
紺色を基調とした、とても大人っぽいものだった。
切手を貼る部分にぼやけた満月が描かれていて、星が散りばめられている。
星と言ってもシャーペンで書けるような星ではなく、ぼやけた、本当の星空みたいな絵だった。