嘘でも良い
立ち上がった僕は、急いでケイタイで文章をうって兄貴に見せた。
<今から行ってくる。
留守番、お願いするね>
「待て彷徨」
兄貴は僕のつけているマスクを外した。
「ちゃんと面と向かって話せ。
声が出せなくても良いだろ。
俺とはケイタイで話しているんだからよ。
越田夏月とも、ケイタイで話せるだろ」
僕は頷いた。
そして今度こそ行こうとする。
…と思ったら、また止められた。
「これ、持ってけ」
兄貴が渡してくれたのは、僕がムーンとして手紙を書き始めた頃から育てている赤いチューリップだ。
何でこれを育て始めたのかは、覚えていないけど。
「この花言葉、今のお前にピッタリだろ」
僕は頷いた。
そして、出来る限りの笑みを兄貴に見せて、口を開いた。
声は出ないけど、口パクは出来る。
『あ り が と う』
手に赤いチューリップを持ち、僕は走り出した。
住所なら、兄貴に聞いていた。