嘘でも良い
インターフォンを鳴らすと、越田夏美が出てきた。
「…月更くんよね?」
僕が来たのにもかかわらず、越田夏美は冷静だった。
「皇紀から聞いているわ。
夏月に会いに来たのね」
兄貴、連絡したんだ。
僕は頷いた。
「夏月、いるわよ。
呼んでくるから、待ってて」
バタンと扉を閉め、僕は1人になる。
…赤いチューリップなんて、何だかキザだなぁ。
薔薇よりはマシかもしれないけど。
ガチャリ、と控えめに扉が開いて行く。
僕はその瞬間になって、改めて恥ずかしくなった。
それで勢いに身を任せ、グイッとチューリップを出した。
彼女―――越田夏月は、驚いたように目を見開き、チューリップに注目した。
「つ、月更くん……?」
やっぱり驚いているよね。
あー、何で僕声出ないんだろ。
自分で自分が本当に、嫌になる。
だけど、伝えないと。
彼女は僕に伝えたんだ。
僕自身も、ムーンが誰なのか言わないと。