嘘でも良い
チューリップを受け取って、泣きだした越田夏月。
花言葉は、わかっているのだろうか?
それとも、他の意味で泣いているのだろうか?
僕はケイタイを取り出し、うち始める。
ムーンが誰なのか、教えないと。
ふと越田さんはケイタイを持っていないことに気が付く。
送信し終えて、僕は越田さんを見た。
視線で気づいてほしい―――なんて甘いのは駄目だろうか?
普通は気が付かないよねー。
僕はメモ欄に<ケイタイは?>とうち込んだ。
部屋の中にある、と答えた越田さんに取ってくるよう言う。
越田さんは疑問を浮かべたままの表情で頷いて、家へ入って行った。
戻ってきた越田さんは僕に中へ入るよう言い、僕は玄関先に座る。
掃除が行き届いているみたいで、家の中は綺麗だった。
まぁ今はそんな呑気なこと思っている暇はないんだけど。
越田さんは僕が送信したメールを見て、驚いていた。
そりゃあ驚くよね。
僕は越田さんが姉の身代わりをしていたように、僕も兄の身代わりをしていたことを伝えた。
そして何故越田夏美宛ての手紙が、越田夏月の下駄箱に入っていたのか、その経緯も伝えた。
越田さんは笑っていた。
初めて見た、彼女の笑顔。
…ずっと見たいと、思っていたんだ。
どこまでも同じ境遇だった僕ら。
そんな彼女を前にしたからなのか、僕も素直に笑えた。
<答え、聞いても良いですか?>
僕は越田さんの持つチューリップを指さした。
「あたしで、良いんですか?」
<はい、勿論>
「…嬉しい。
あたし、ずっとムーンくんが好きだったから。
本当に、嬉しいです。
あたしも、同じです」
赤いチューリップの花言葉。
愛の告白。
騙し続けていた僕らが、
初めて“本当”のことを言った瞬間だった。