嘘でも良い






あたしは放課後、お姉ちゃんと帰るのを断って、園芸屋さんに行った。

そして、お小遣いを使ってチューリップの種を買った。

お母さんに電話で鉢がないか聞くと「ない」と言われたので、鉢も購入した。





「ただいま」

「お帰り夏月。
どうしたのよ今日は」



出迎えたお姉ちゃんに、「何でもない」と言って階段を上がり、自分の部屋へ行った。

一旦荷物を置いて下で手洗いうがいを済ませると、再び自室へ向かう。




あたしの部屋には、ベランダがある。

扉と網戸を開け、鉢をセッティングし、種を植えた。

下へ降りてコップ一杯分のお水を汲んで来て、注いだ。

咲く花は勿論赤いチューリップ。

チューリップを育てるのは初めてだ。

もし上手く育ったら、ムーンくんに写真を送ってみようかな?




あたしは嬉しくなって、まだ芽の出ていない鉢植えを撮った。

早く咲きますように。

ムーンくんに写真を送りたいからね。





「何植えたの?」

「ぅわっ!?」



後ろからお姉ちゃんに話しかけられ、思わず尻餅をつく。



「もしかしてチューリップ?
アンタ、チューリップ好きだもんね」

「べ、別に良いじゃない」

「あんな子どもっぽいの、何で好きなんだか」



お姉ちゃんは部屋を出て行く。




チューリップを子どもっぽいと言うお姉ちゃん。

そんなお姉ちゃんからムーンくんへ行ったメールは、チューリップが好き。

正反対のこと、言っているじゃない……。




良いの。

ほんの少しの間の幸せなんだから。

ムーンくんが直接会いたいって言ってきたら、断れば良い。

そしてそのまま、ムーンくんには悪いけど、別れよう。

彼氏が出来ました、とか嘘をついて。



それまでは、

越田夏月を、嘘の越田夏美でいさせて。








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