嘘でも良い







スッと目の前に教科書が渡される。




「あ、ありがとうございます」



お礼を言いながら顔を上げると。

拾ってくれたのは、男子だった。



軽くウェーブのかかった、真っ黒な髪。

長くって目元が隠れていて、白いマスクをしていた。

制服もちゃんと崩さず着ていて、真面目そうだなって印象だった。



あたしは小さく会釈をして、再び教科書を持つ。

すると肩にかけている鞄がずり落ちてきて、そのせいで思わずバランスを崩し、また教科書を落としてしまった。

あたしが拾おうと屈みこむと、その男子が拾って置いてくれた。




「ありがとうございます」




お礼を言って立ち去ろうとすると。

何故か、その男子は目の前に立った。




え?

何で目の前に立つ?




するとその男子はヒョイッと数冊教科書を抱えてくれた。

あたしと彼で、半分ずつ持っていた。




「え、持ってくれるんですか?」



思わず尋ねると、彼はこくんと頷いた。







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