嘘でも良い
「そんな…悪いですよ!」
断ろうとしたけど、彼は首を振るばかりで渡そうとしない。
「お言葉に…甘えても良いんですか?」
こくん、と頷かれたので、あたしは「お願いします」と頼むことにした。
職員室までの道のりを、彼と並んで歩く。
ふと横目で彼を見る。
歩くたび、ふわふわと揺れる黒髪。
髪が長いからどんな顔立ちなのか見えないけど。
背が高いのは、確実だった。
あたしが150だから、少なくとも155はあるだろう。
そういえば、ムーンくんはどれくらいの身長なんだろう?
どんな見た目をしているんだろう?
どんな声をしているんだろう?
…何だか色々気になって来た。
でも、あたしたちは数少ない手紙とメールだけのやり取りの関係。
しかもあたしは嘘をついている。
簡単にどんな素性なのか聞いてはいけないだろう。
気になるのは、気になるけど……。
何だろあたし。
これじゃあたし、ムーンくんが好きみたいじゃない。
好きになっちゃいけないのに。
…こんなにも、気になるなんて……。